死ぬまでにしたいいろんなこと

墺太利(おーすとりあ)滞在6年

情熱の国から帰って来て

この夏2週間ほど、スペインのアンダルシア地方にある、農家でホームステイしていた。

そこは仕事で出会ったスペイン人の実家で、彼のご両親と弟が住んでいる。

 

そこでの2週間があまりにも特別で、書き起こすと輝くような小さな幸福感のかけらが輝きを失いそうで、どうにも詳細を旅行記のように書き出すのをためらっている。

とは言え記録しないと記憶は薄れていくので、少しずつ、書き出していくつもり。

 

そんなこんなで、あまりにもスペインでの日々が鮮烈だったせいか、ウィーンに帰ってから謎の全身じんましんに襲われている。

あまりにもひどいので、病院に行ったら即刻点滴された(笑)

 

ともあれ。

 

ここ1年ほど、そのスペイン人の同僚(すごくシャイで、仕事に必要なこと以外は、スペイン語でしか話そうとしない)の影響で、こそこそスペイン語を勉強していたのだが

(ドイツ語もままならないのに何をやっているんだか)

その甲斐があって、ご家族ともなんとかスペイン語でコミュニケーションが取れた。

 

突然やってきた顔の平たい族の娘を、家族のように扱ってくれた彼のご両親。

一緒に食卓を囲むとあれも食べろ、これも食べろ、わざわざ買ってきたハムだから!と半ば強制的に皿に色々もられ、いえ、もう、本当に結構です、お腹いっぱいなんで・・・などと言おうものなら、悲しい顔をするお母さんとちょっと怒り出すお父さん。

コメ好きだって言ってたよね、あと魚介も、じゃあお昼はパエジャだ!なに?甘いものも好き?じゃあ夜はチュロを食べに行かなきゃ!

・・・みたいな感じで、ほぼ1日おきに深夜2時のチュロスを頂いておりました。

ちなみにチュロスじゃない日はアイスを食べにいく決まり❤︎

そんなこんなで朝起きるといつも胃が重く、朝食抜きで農作業を手伝いに行き、やっとお腹がこなれた11時ごろにみんなで畑で朝ごはん!!

14時になると働くには暑すぎるので、シエスタ休憩。その前に昼ごはん!

18時ごろにまたみんなで集まり、22時ごろまでお仕事。そのあと夜ごはん&デザート!就寝は早くても2時か3時・・・

 

彼らの生き方は私が日本で、またはオーストリアで、仕事でよく訪れるドイツで見ている「現代的」「都会的」な生活に比べたら、「牧歌的」「素朴」「一昔前の」と形容されてしまうような暮らしだった。

私にはそれが、とても愛おしく、ヨーロッパに来てから初めて、「人間」として存在させてもらっている感じがした。

 

まあ、短期的にいたお客さんだから、いい部分ばっかり見えたというのはあると思う。

 

確かにお母さんも「ここには自然があって、山があって海もあって、魚も肉も美味しいし、プールもビーチも友達も、なんでも揃ってるけど、仕事がないのよねえ」と言っていた。「夏は楽しいけど、それは冬が大変だから、今のうちに楽しんでおくのよ」とも。

 

ちなみにそのご両親は、オーストリアやドイツなどヨーロッパ各国でビジネスを展開している実業家でもあり、スペインのご自宅を訪れる前にも息子さんを通じて何度かお会いしていたのだが、いつも親切で礼儀正しく(非社交的な私が珍しく懐いてしまったほど)、とても良い人たちなのだ。

 

で、私が「なんでいつもそんなに、誰にでも優しくできるんですか?」と聞いたら、

「誰にでもじゃない。相手が自分に親切だから、親切を返すことができるだけだ。いつもあなたが私たちに親切だったように」と言われ、

ああ、私は、とりあえず人間関係に関する姿勢は、間違ってなかったかもしれない、でももっと相手に親切を最初にあげるように心がけよう、と思えた。

 

そんなこんなで、下手すると日中40度を超えるのにカラッと晴れて嫌じゃない空気、庭の小さな冷たいプールでレモネードを飲みながらだらだらする夕涼みの時間、そこでたくさんスペイン語を習ったこと、ご近所さんが勝手にプールにお邪魔しに来ること。

どの食事にも毎回ついてくる白いパン、汗をかくからなのか?何にでも塩(と大抵の場合にんにく)がめちゃくちゃ効いてる料理、それを白いパンと一緒に食べるときの幸福感。

あー、もうお腹いっぱい!ってなった後にお父さんが「チョコラーテ?」とニヤッとしながら目配せし、結局行く事になるチュラテリア、巨大なチュロス、どろどろに濃いホットチョコレート

深夜2時を過ぎているのに、小さな子供たちがはしゃぎ回る村の商店街、喧騒、いつの間にか涼しくて、羽織りものが必要なくらいの夜の空気。

 

そういうものを、美味しいイベリコハムを食べるときみたいに、うまみをしっかり確認しながら、しょっちゅう、噛み締めている。

 

あのスペインでの2週間の後では、ウィーンの街が余計に「灰色の老貴婦人」然として見えたが、それは私がウィーンの街から親切を感じるにあたうだけの、親切を支払っていないからなのでは、と思いなおした。

 

今後は、ドイツ語のさらなる勉強はもとより、もっとウィーンのいろいろなところに出かけて、ウィーンをよく知ろうと思う。

 

ちなみにタイトルの「情熱の国」は google で "spain the country of" と入れたら、"passion"と出てきたので。

でも私はそんなに「情熱」の国とは思わなかった。

「人情」とか「情念」の方があっている気がした。地方にもよるのかもしれない。