死ぬまでにしたいいろんなこと

墺太利(おーすとりあ)滞在6年

眠れない私と、眠りすぎる主人公。吉本ばなな、『白河夜船』。

今週のお題「人生に影響を与えた1冊」



私は高校生のとき、夜に眠れなくなったことがある。

高1の半ばから高3の最後の方まで、だから、まあ、高校生活のほとんどは不眠症だった。

どんな「眠れなさ」だったかというと、夜が、怖い。
眠る前に目をつぶって考え事をしてしまうのが、怖い。

当時私は進学校に入って、自分は勉強ができると思っていたのが、実は全然そんなことはないことに気付き、

さらに周りの子は勉強だけでなく「+α」の魅力(おもしろいとかかっこいいとかかわいいとかピアノができるとか足が速いとか雰囲気が素敵とか)
も持っていて、

自分は頭も悪けりゃ顔も悪いし、運動神経も性格も悪いため、

もう早くこの世を退場した方が、地球のためなんじゃないかと
温室効果ガス削減的な意味で)本気で悩んでいた時期だった。

ベッドに入って電気を消し、目をつぶると猛烈な焦りに襲われる。
このままじゃダメだ、このままじゃダメだ、
勉強でも、読書でも、ダイエットのための運動でもいい、なにかしなきゃ。
これ以上のクズになったら、もう耐えられない。いや、今でも自分のダメさに耐えられない。

そんな思いに襲われるため、だんだん夜、目をつぶることそのものが怖くなった。
携帯のゲームとか、ネットサーフィンでとにかく気を紛らわした。
だから夜、2時間ほどしか眠れなかった。

もちろん昼間、授業中には猛烈に眠くなった。

授業がわからなかったのもあるけど、
昼は夜と違ってあかるいし、周りには健全なクラスメイトがいて健全に息をしている。
そういう「健全なもの」に囲まれている安心感の中、ゆっくりと眠ることができた。

そして夜になるとそれを猛烈に後悔する。

その繰り返しが日々の全てだった。

そういう時に出会ったのが、よしもとばななの【白河夜船】だった。

白河夜船

白河夜船

【あらすじ】
寺子は岩永と不倫している。岩永の奥さんは植物状態。
寺子は岩永と会う時間を作るために仕事を辞め、今は無職。
寺子の親友しおりは「添い寝」ビジネスをしていたが、ある日、自殺。
そんな日々の中、寺子はとにかく、よく眠るようになる。
眠りに関する短編3つからなるお話。

『眠りの三部作』とも呼ばれているらしい。
スピリチュアルな感じもたくさんするし、
人間の繋がりに関してはっとするような描写もたくさん出て来る。

高校生の私がこれを読んで思ったのは、

『ひとって、たくさん寝てもいいんだ』

ということだった。

しかも主人公の寺子は無職である。明日のために眠るとか、
「眠り」に確固たる理由があるわけではない。

『ひとって、よくわかんないけど眠ってもいいんだ』

この小説を読んでから、
少しずつ、私は夜に眠れるようになった。

この小説を読んで劇的に、というわけではない。
どのシーンが印象的だった、とか、このセリフが心に残っている、というわけでも、ない。
ある日、気づいたら、いつの間に、という感じだった。
思い出してみると、「あ、『白河夜船』を読んでからだ」と気づいた。

今思えば、高校の不眠時代は地獄だった。
頭をかきむしりたくなるような思いで夜を過ごしていた。
夜が来るのが怖くて仕方がなかった。

(幼くて精神科に行く勇気はなかった)

それを終わらせてくれたこの小説は、わたしにとってとても重要なものだったと思う。

眠れない人に、おすすめです。
(でもほんとに深刻な人は心療内科に行きましょう)